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訪問歯科診療 公開日:2025/06/11

トラブル対策の基本!患者様の安全を第一に考えた診療体制の構築

トラブル対策の基本!患者様の安全を第一に考えた診療体制の構築

こんにちは。デンタルサポート歯科事業部の萩原です。
訪問歯科診療サポート歴20年。現場サポート、介護施設などへの営業経験を活かし、「訪問歯科を”地域に必要とされる診療”として根付かせる」ことを目標に支援を提供しています。

萩原さん画像

訪問歯科診療は、通院困難な高齢者や障がいがある方にとって欠かせない医療サービスです。
しかし、診療環境の多様性や患者様の全身状態の変化などから、外来よりも医療事故やトラブルのリスクが高いという特性があります。

本連載「訪問歯科における医療事故・トラブルへの対応【信頼され続ける医院を目指して】」では、訪問歯科診療で起こりうるさまざまなトラブルへの対応策と未然に防ぐための実践的なノウハウを提供します。
第一回では、トラブル発生時の初期対応から再発防止策まで、患者様の安全を第一に考えた診療体制の構築方法を解説します。

訪問歯科診療特有のリスク要因

訪問歯科診療は、外来診療と比較して以下の特有のリスク要因があります。
これらの要因が複合的に作用し、訪問歯科診療では外来診療以上にトラブルリスクが高まります。
以前の連載では「ヒヤリハット対策」の重要性を取り上げましたが、ここでは「実際に事故が起きてしまった場合」の対応と再発防止策に焦点を当てます。

  • 環境の変動性:患者様の自宅や介護施設など、毎回異なる環境で診療を行う。
  • 設備・機材の制約:設備や照明、空間の広さなどに制約が生じる可能性がある。
  • 患者様の状態:高齢者や基礎疾患のある方が対象となるため、急な体調変化や予期せぬ反応が起こる可能性がある。
  • 多職種連携の必要性:看護師や介護スタッフなどとの連携が不可欠。
  • コミュニケーション:患者様、ご家族様、施設職員等への説明不足や誤解からトラブルに発展する恐れがある。
▼ヒヤリハット対策についてはこちら
【連載】トラブルになる前に!ヒヤリハット対策のススメ
■第一回 訪問歯科診療に潜むリスク「ヒヤリハット」って何?(2025年4月23日公開)
■第二回 訪問歯科診療におけるヒヤリハットの共有の重要性とは?(2025年5月14日公開)

トラブルを防ぐ3つの視点

医療事故の発生を防ぐためには、以下の3つの視点からの備えが不可欠です。

①患者様対応安全を確保するための基本行動
➁スタッフ教育
正しい判断と初動対応の力を養う
③チーム体制と情報共有
事故を起こさない仕組みづくり

①患者様対応:安全を確保するための基本行動

日頃から以下の点に注意し、患者様の安全確保に努めましょう。

  • 診療前の体調確認:診療当日の全身状態を把握します。前回の訪問時との変化にも注意を払いましょう。
  • 嚥下能力や意識レベルの確認:誤飲や誤嚥、窒息のリスクを回避するために、診療時に嚥下機能や意識レベルを確認します。
  • 体位管理:患者様の状態に合わせた安全な体位を確保します。呼吸状態や誤飲や誤嚥リスクを考慮し、必要に応じて体位を変えましょう。
  • 環境整備:照明、騒音、室温、床面の状態など、周囲の環境にも配慮し、安全な診療空間を確保します。

➁スタッフ教育:正しい判断と初動対応の力を養う

スタッフが適切な判断を行い、迅速に初動対応できるようにするためには、医療安全に関する基礎知識の習得が不可欠です。緊急時に備えた対応訓練も定期的に実施し、普段からシミュレーションを通じて実践力を高めておくことが重要です。また、経験の少ないスタッフにはOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を通じた実践的なサポートを提供し、スキル向上を支援することが求められます。

③チーム体制と情報共有:事故を起こさない仕組みづくり

事故を未然に防ぐには、診療前にチーム内でしっかりと情報を共有することが重要です。チェックリストやマニュアルを整備して共通の基準を設けることで、全員が同じ方針に従って行動できるようにします。さらに、記録を徹底し、ダブルチェックを行うことで、ミスを防止し、過去の経験を活かした安全な診療環境を構築することができます。

トラブル発生後の適切な対応と再発防止の鍵

万が一トラブルや事故が発生した場合、その後の対応が医院への信頼を左右します。ここでは、事故発生時の初期対応、報告、情報共有、再発防止策の基本的な流れを説明します。この流れを診療チーム全体で理解し、実践できることが重要です。

迅速な報告と対応

1. 初期対応

患者様の安全確保を最優先に考え、状況に応じて速やかに応急処置を行います。

2. 関係者への報告(説明と謝意)

患者様やご家族に対して迅速で誠実な説明を行い、状況を丁寧に伝えます。また、施設内の職員にも状況を報告し、必要に応じて協力を依頼することが重要です。その上で、謝罪を行い、今後の対応方針について明確に提示します。

3. 医療連携の実施

主治医には迅速に報告し、指示を仰ぎます。その後、医師の指示を確実に実行します(誤飲時はレントゲン撮影が必要かどうかなどを確認)。また、連携医療機関との情報共有も円滑に行います。

4. 継続的なフォローアップ

患者様の容態を継続的に確認し、必要に応じて定期的に電話でフォローします。経過を観察し、適切な追加対応を行い、関係者に対する経過報告を欠かさず行います。

詳細の正確な記録と共有

1. 事実に基づく記録

日時や場所、状況、対応内容、関係者への連絡事項を詳細に記録します。

2. 組織内での情報共有

医院全体へ事故の情報を当日中に共有することは極めて重要です。情報共有の方法として、メールや書面に加え、ミーティング形式も推奨しています。

原因分析と共有

3. システム思考による分析

個人の責任を追及せず、システム全体の課題として捉えます。複数の要因を洗い出し、全体としての改善を目指します。

4. チーム内での振り返り

非難のない安全な場で振り返りを行い、全員が参加できる意見交換を実施します。類似事例や他院の事例と比較して、さらなる改善策を模索します。

改善策の実施と検証

1. 具体的な改善策の立案

チェックリストやルールを更新し、改善策を文書化して関係者に周知します。実行可能性の高い対策を策定し、確実に実施します。

2. 効果の検証

再発防止策が現場で効果的に実施されているかを定期的にモニタリングし、その効果を測定します。必要に応じて修正を加え、継続的な改善を図ります。

参考資料のご紹介
厚生労働省では、医療安全対策の一環として以下の資料を公開しています。自院での報告書作成の際にぜひご活用ください。

■ ヒヤリハット報告書
事故には至らなかったものの、事故につながる可能性があった事例を記録するための様式です。
▼詳細はこちら
https://jsite.mhlw.go.jp/fukuoka-roudoukyoku/content/contents/000823930.pdf

■ 医療事故報告書(院内報告書)
実際に事故が発生した場合の報告書様式と記載方法について詳しく解説されています。
▼詳細はこちら
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/1/torikumi/naiyou/manual/6.html

医療事故事例から学ぶ安全対策

実際の事例を知ることで、具体的な対策を立てることができます。以下に代表的な2つの事例を紹介します。

医療事故事例1:誤飲事故

介護施設の居室のリクライニングベッド上にてFMC(フルメタルクラウン)セット時の試適中、掴んでいた指が滑り誤飲してしまった事例。

発生要因分析

  • 環境要因:診療時のリクライニングベッドの頭の角度が適切でなかった。
  • 人的要因:同行DHは他の方の口腔ケアをしており診療補助をする者がいなかった。
  • システム要因:誤飲のリスクを考えた対策を何も実施していなかった。

具体的対策

  • 診療姿勢の改善:診療中は頭部をやや前屈させ、誤嚥リスクの低い体勢を保持する。
  • 人員配置の見直し:リスクのある処置時には必ず複数名体制での診療を徹底する。
  • 予防策の導入:バキューム使用を徹底し、誤飲時の初動マニュアルを作成する。
  • 事前リスク評価:患者様ごとの誤飲リスク評価をし、カルテに記載する。

医療事故事例2:診療後の転倒事故

事例詳細

診療後に患者様が自力で立ち上がった際に転倒し、左大腿骨を骨折した事例。

発生要因分析

  • 意識要因:患者様への声掛けや見守りの意識が欠如していた。
  • 情報要因:患者様の事前の体調把握が不十分であった。
  • 連携要因:診療後、施設職員への引継ぎルールが未設定だった。

具体的対策

  • 見守り強化:診療後も声掛けと見守りを徹底する。
  • 安全確認手順の追加:自立歩行可能な患者であっても、状態確認後に移動をサポートする。
  • 連携体制の構築:施設職員と診療前後の役割分担を明確にしておく。
  • 環境整備:動線の確保と障害物の除去を徹底する。

医療安全文化が育む、信頼される訪問歯科診療を目指して

いかがでしたでしょうか? 訪問歯科診療は、事前の備えと事故発生時の適切な対応の両方が重要です。
「隠さず、責めず、学びに変える」という姿勢で、医療安全文化を醸成していきましょう。
小さなトラブルもチーム全体で共有し、組織の知恵として蓄積することが、安全で信頼される訪問歯科診療につながります。

訪問歯科診療の医療安全対策は、患者様の信頼獲得だけでなく、スタッフの安心にも寄与します。
しかし、限られた人員や時間の中で、理想的な体制を構築するのは容易ではありません。
デンタルサポートは、25年にわたり多くの歯科医院の医療安全体制を支援してきました。これまで数多くの歯科医院のサポートを通して医療安全体制が整うよう取り組んでまいりました。
これまでの経験を元に、現場に即した最適な医療安全対策をご提案いたします。
「自院の医療安全体制を見直したい」「効果的なスタッフ教育の方法を知りたい」など、お気軽にご相談ください。初回相談は無料です。


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